ツインテールの吸血鬼はお好きですか

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艦隊これくしょん:プロローグ

妹がレイテ沖海戦で海の藻屑と消えた兄の生存を知ったのは、あの夏の放送から3年の時が過ぎた頃だった。

 

兄は帝国海軍に所属し、ある巡洋艦の艦長を務めていた。兄は幼い頃から優秀で、文武両道に秀で、質実剛健を表したかのような男だった。士官学校を経て若き海軍のエリートとして内外に名を馳せていた。一族は兄を褒め称えた。

 

帝国軍人らしく型にはまりながらも時には情を優先させる兄には慕う部下たちが大勢いた。まだ戦争が始まらなかった頃、兄と兄の部下たちが我が家に集まり賑やかに騒いでいたことを今でも覚えている。そんな兄のことだ。乗艦が沈む時に艦と運命を共にしようと考えたことは不思議なことではない。

あの激戦の最後、今にも轟沈しそうな船に残り、部下たちを逃がした後も兄は艦に残り、艦と共に沈んだ。

 

生き残った兄の部下が、我が家に兄の最期を告げに来た日のことは未だに頭から離れない。

 

 

海に消えた兄は生きていた。海上を漂流した後、奇跡的に近隣の無人島に流れ着き、九死に一生を得ていたようだ。しかし、絶海の孤島での数年の経験は兄を人間として崩落させるには十分すぎる時間だったようだ。

たまたま島のそばを通りがかった米国の商船が兄を見つけたとき、兄の壮健だった体はすっかりやせ細り、40そこそこであるのに頭は総て白髪となっていたという。

数年の間、絶海の孤島で孤独に過ごし、生きも生きられぬ恐怖の夜を幾度となく過ごした兄は、既に正気を逸していた。

 

 

故郷の呉に兄を乗せた船が着いたとき、妹は港まで迎えに行った。杖をつきながらよろよろと桟橋を歩いてくる軍服を着た老人―それが兄だった。妹は兄に駆け寄り、兄の方を抱いた。しかし、兄は駆け寄った妹に、何の反応も見せなかった。ただうわごとのように繰り返していた。「川内・・・川内がでないんじゃ・・・あの娘がいないと・・・第3艦隊は・・・」

兄は、港に係留されている様々な船を見ては、何かを見出すように様々な駆逐艦、巡洋艦の名前を呟いている。しかし、それは船にかける言葉ではなく、まるで娘に声をかけるような―。

妹は兄と一緒に降り立った医者と思しき人物に問いただした。医者―は顔をしかめ、うつむくように答えた。「お兄様は・・・既に正気を失っておられます。お兄様はあまりにも海を愛し、艦を愛しました。それは娘を愛するようなものでした。艦を失い、流れ着いた過酷な環境で生きるためには、幻想の中で艦を娘として愛するしかなかったのです」

 

 

その言葉を聞き、妹は爆発した。その場に崩れ、号泣した。兄は帰ってきた。しかし、兄は、兄の心はここには帰ってきていない。

泣き叫ぶ妹のそばで、兄だった者がつぶやく。「資源・・・資源が足りないんじゃ・・・陸軍は何をしている。早く燃料を、ボーキサイトを・・・」

 

 

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艦これ始めました。