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君の名は。とか

今、世間的に大流行している「君の名は。」を見たのは、少し前…公開2日目だった。その頃のおれは、ガルパンだのシン・ゴジラだので耳目を集めていたULTIRAという上映方式に興味を抱いていた。「君の名は。」を見た理由は、そのULTIRAベンチマークのために、美麗な背景に定評のある新海誠の新作がちょうどいいと、そんなところだったかと思う。

もちろん、映画館で事前に予告は何度も見ていたけれど、ストーリーについては「入れ替わる」くらいのことしか知らず、ほとんどまっさらな状態で見た…と思う。そもそも新海的作品にストーリーは期待していなかった。話の筋がどうのこうのであるより、ひたすら叙情的なモノローグと美しい音楽…そんな典型的なイメージしか抱いていなかったものだから。美麗な背景さえ観れればそれなりに満足するだろうという気分だった。

…既にその日のTwitterのタイムラインでは、「君の名は。」に対し絶賛に近いコメントをツイートしていて、それがふだんは結構偏屈なタイプの人だったもんだから、自分の中で少しだけ期待値を上げてはいたかもしれない。実際見てみて、確かに「すごいな」という感想を抱いた。特に秒速5センチメートルをつい先日見たばかりだったから、余計に「すごいな」と思ってしまった。これまでの新海誠のイメージを覆すものだったから。

 

おれにとって、おれと同世代の人にとって、新海誠というのは「ほしのこえ」の人だ。そしてWindのOPの人でもある(人によっては別の作品が入るかもしれないが)

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雲のむこう、約束の場所」は、当時劇場まで観に行ったし、DVDも買った。サントラもあったと思う。当時のおれは、もう少し若くて、深淵そうで感傷的なものを求めていたのだと思う。…でも「秒速5センチメートル」の頃にはあまり興味を抱かなくなっていた。それはいつまでも少年期の葛藤や無力感を見せつけられる苦痛に耐えられなくなったのかもしれない。

近頃はCMでたまに見かけるようになっていた。美麗で緻密な背景はますますその凄みを増しているようだった。そして映画館で度々観る予告。なるほど、今度は観てみようかな、と。でもストレートに観る気はないから、例えば特集上映が観たいから、みたいな理由をつけて。

 

何が凄かったのだろう。

やはり背景は相変わらず良かった。冒頭の幻想的な彗星のシーンから、キラッキラの新宿、定番の電車の風景と、これまでの作品通りの超美麗背景を楽しむことができた。それよりも、とても良い意味で「普通」のアニメーション映画になっていたことに驚いた。JK口噛み酒のカットなんて、これまでの作品じゃ絶対考えられないポップな表現だ。入れ替わりシーンの「あいつは!」とお互いが言い合うシーンなんてのもそうかもしれない。

それでも、新海誠新海誠的な作品を崩していないと思ったのは、「少年の頃夢中になっていたことって、後から振り返るとなんで夢中になっていたのかよくわからないよね」という一種の諦観が感じられたからだ。ああ、あるある。って思ってしまった。もしかしたら夢の中であった女の子に夢中になっていたのかもしれない。好きだった女の子の名前はなんだっけ…?強烈な体験だからいつまでも覚えてるなんて都合のいいことはなく、少年の日の思い出はいつか儚く消えていく。この漠然とした喪失感こそ新海誠作品だよなぁと。

でもね、これまでの新海誠はそこで止まっていた。でも「君の名は。」では、その先に進んでいた。じゃあ出会えばいいじゃん、と。極めてシンプルな答えだった。監督曰く「この物語は出会う前のふたりのお話だ」と。二人が出会った理由には、実はこんな因縁があったのかもしれない。まあ、でもそんなことは関係なく、ふたりは出会ってしまって、これからストーリーを紡いでいくんだろう、とそう前向きに思わせるような爽やかな作品だった。だからこんなに受け入れられてるんだろうなぁと。

 

このシンプルな答えに辿り着くまで10年以上かかってしまったが、たぶん無駄なことではなくて、今だからこそ出せた答えなんだろうなぁというのは感じた。この答えを出した後の、これからの新しい新海誠作品が楽しみだ。