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ツインテールの吸血鬼はお好きですか

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MadMax : Fury Road

マッドマックス 怒りのデスロードを見た。


おれは旧作マッドマックスを観た事は無く、パンフレットも買ってないので世界設定や背景について知っていることは特に無い。したがって、以下の文章は画面から受けた印象のみで語っていることを予め断っておく。

 

 

そもそも本作に興味を抱いたのは、そこかしこで「バカ映画」だと騒がれているから、という至極単純なものである。「バカ映画」という言葉は、解釈が非常にわかれるのだが、ここでは「全く何も考えなくて見られるアクション超大作」のこととしよう。


しかし、世の中にバカ映画は数あれど「全く何も考えなくて見られる」というのは、意外と難しい。バカ映画とは、派手なアクションと爆発を連続してやってればいいというものではない。ストーリー展開、ちょっとした台詞、画面の分かりづらさ、そんな些細な事柄ひとつでスッと現実に戻されることはよくあるものだ。「何も考えたくないのに、なんで?」って思わせる映画はバカじゃなくてダメだと言うことができるだろう。

 

その点、本作は非常に「バカ」に配慮して作られていると思われ、「何も考えなくても見られる」ことを追求していた。冒頭5分のアクションで、本作のコンセプトや世界観に関してだいたい観客に理解させてあげる手法はもちろんのことながら、キャラクター一人ひとりに対してもなるべく視聴ストレスを与えないようにしていたのは特筆すべき事だろう。「なんでそんなことするの!?」という登場人物と観客の心理の差を軽減するような工夫が随所に為されていたと思われる。


要はみんな合理的に動いているということだ。

マックスは娘か何かの幻影に囚われているのだが、そのせいでマックスの行動が鈍るといったことは特に起きてないから安心できる(幻影に対する説明は特にないし、別に乗り越えもしないのだが「まあ何かあったんだな」程度に思うことができる)
ハリウッドでありがちなヒステリー女(不合理な展開に無理やり推し進めようとするアレ)もいることはいるのだが、1分くらいで改心して普通に進行に戻るので安心できる。
人はバンバン死ぬけど、誰もそんなに他人の死を引きずることがないのも良かった。

そんな風に、極めてドライでありながらもスっと各人の行動が理解できる。悪役一人ひとりに対してもである。

 

さらに―上記と矛盾するような話だが―「何も考えなくても見られる」という作風に対し、非常に考えさせる示唆に富んだストーリーであったことも驚きだった。おれ自身、画面を観ながらかなりストーリーや舞台設定に考えていたことが多かった。これは現実に戻されるという意味での「考える」ではなく、世界設定や背景に関して掘り下げようとする「考察」の気分だと思う。

 

本作には宿敵であるイモータン・ジョーという男を狂信するウォーボーイズという戦闘集団がおり、主人公たるマックス一向と対峙するわけだが、彼らが死に際に銀色のスプレーを口に吹き付けて自爆するシーンが非常に印象に残った。この行為に何の説明も無いが、ジョーは神として崇められているという描写から察するに、よくある「死ぬことで神の下に行く」というタイプの教義を彼らに吹き込んでいることは想像に難くない。スプレーを吹き付けて自爆する、というのが彼らの中で「イケてる行為」というわけなのだ、たぶん。
一見すると自爆テロの延長のように思われるし、「やれやれひどい教祖様もいたもんだ」という感想を抱きがちなわけだが、本作の世界観を鑑み、ウォーボーイズがそもそも何であるのかということを理解すると見方が一変する。

マッドマックスの世界は、戦争だか何らかの災厄で世界中が砂漠になってしまっているわけだが、同時に各地では汚染も進んでおり、そこはもはや人が住める場所ではない。汚染された大地で生まれた人間はどいつもこいつも病んでいるが、その中でとりわけウォーボーイズは死に瀕した病人たちでもある。スキンヘッド、死人のような肌の色、すらっとした痩せた体は、狂気の集団としての演出でもあるが、同時に末期癌に侵された病人たちのそれでもあるのだ。


そんな放っておいても死ぬような連中に対し、戦って死ぬことで神の下に行けるという希望を教え込み、死地に送り出すことは、果たして残酷なことなんだろうか。汚染された大地で夢も希望も無く死ぬのとどっちが残酷なんだろうか。ジョーという男は欲望に忠実に生きてはいるが、少なくともウォーボーイズたちに生きる希望を与えていたという側面もあるのではないかと。そんなことを考え出すと、単純にこの話を、悪いボスをぶっ殺す勧善懲悪モノとは見れなくなるわけだ。

ああ、そうだ―。善いとか悪いというのは―正常な世界から見た者の解釈だ。少なくともマッドマックスの世界では全員が自分の行動を全力で善いと思ってやっている。―その考えに至ったとき、スッと映画の中に入った気がした。現実に戻されるのでなく映画と同期する感じ。そうなるとそこに自分の思考は存在せず「Watch movie or be part of one」ってわけさね。「何も考えずに見られる映画」ってのは「思考が登場人物と同期する映画」ってことなんだと思う。マッドマックスはその点がすごくよかった。ただ「バカ映画」なんて言ってられないと思う。