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朝霧の巫女 8巻

 

朝霧の巫女8巻を購入した。前巻から一年と三ヶ月ぶりの刊行となるようだ。

 

毎度毎度新刊を楽しみにしているのだが、刊行ペースが遅いので前巻の内容がすっかり頭から消えてしまってるのも本当。こちらとしてもまず前の巻の内容を思い出すところから始めなくてはいけない。

 

 

振り返ってみよう。

本作品は、広島県三次市を舞台に繰り広げられる妖怪巫女さんラブコメだったはずだ。ひょんなことから親戚の家に移り住むことになった主人公忠尋。彼を迎えるのは従姉妹の3姉妹。しかも神社だからってんだからみんな当然のように巫女さんだ。長女の倉子さんに、同い年の柚子、末娘の珠と、各種属性も完備。こうして少年の嬉しはずかし同棲生活が始まるのであった…。

と思いきや平穏は長く続かない。

次々と少年を襲う怪奇現象。なんと少年は山の民、神と対話する能力を持つ審神者の末裔だった。彼の能力に惹かれ、現れる魑魅魍魎どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げて少年を守るの巫女姉妹のお仕事。なんか学校に巫女委員会は出来るわ、陛下は美少女だわで、いやー少年の行く先はこれからどうなるのって。

 

 

…という話だったはずだが、最新刊では日本陸軍と黄泉の国から蘇った屍が戦争していたりする。すごい。

でも話の広げ方が自然で、なるべくしてなったからすごい。敵・味方それぞれ戦いをやめられない事情があり、過去があり。味方側だって、大人が子供を踏みにじったり、でもそれも子供のためだったりと複雑。けど、主人公は迷ったりしたこともあれど、幼なじみを守るためだけに戦おうとする。根本のストーリーは、少年の成長譚なのがいい。

 

この作品で特に魅力を感じるのは、猫又のこま。主人公の祖母であり、妖怪だから年を取らないし、猫耳だしと、キャラクター造形的にも魅力的であるのだが。おれが魅力を感じてるのは、彼女が「人外」であり、人間とは違った思考をしているところかな、これがたまらない。

彼女は妖怪だけど、人間と同様に子や孫に並ならぬ愛情を注いでいる。けれど、愛しすぎるため、子や孫を周囲から隔絶させようとさえする。それは、彼女自身の言葉を借りて"執着"。

わりと人間の思考からズレているけど、理解できなくもない、そんな人間くさい人外思考を持ったキャラクターってのがすごくいい。

 

この作品、実はとっくに連載終了してるらしいのだが、大幅加筆されてコミックスが出るという珍しい形式になっている。8巻は2012年に出た新刊だけど、掲載されたのは2006年〜7年。単行本になるまで6年くらいかかってることになる。

 

 

その加筆のためか、全ページにわたってクオリティが非常に高い。妖怪描写はオドロオドロしさを出すために筆で描いたようだし、兵器描写も細かい(しかも旧軍の兵器で、それらを現代で使う理由まで用意する周到さ)、神話や神道の薀蓄等々がフンダンに盛り込まれていて、かつストーリーに組み込まれている。

…個人的にはこの作品には鬼気迫るものを感じる。(これこそ作者の執着、だろうか)突然戦場まんがが始まったりする遊び心も忘れてないけどね。

 

朝霧の巫女も残すところあと1巻(らしい)。混迷を極める戦場で、忠尋は柚子を救えるのか。…敵方も哀れなので、最後はそれぞれ幸せな結末を迎えて欲しいが…。叶わないのかなぁ。