いい日旅立ち
俺は昔から実家から帰るとき「月の繭」を聞くことにしている。だんだんと去っていく見知った風景を車窓越しに、「山の端月は満ち」と聞いていると、すごく、ぐっとくるからだ。
どんな場所でも3ヶ月も住めばある程度の愛着が沸いてくるもので、慣れというんだろうか。街の風景も、気候も、だんだん合ってくる。来たときは蝉が鳴くような夏だったのに、いまやコート無しでは歩けないような寒さになっていたのも自然なことだと思った。
だが、そんな慣れた場所も離れなくてはいけない。それが今の俺のやるべきことだからな。…根無し草が板に付いてきた。根がないのに板に付くのも変な話だが。
ということで、短く住んだ香川県高松市を離れた。悪くない場所だった。決して都会ではないが、田舎過ぎない、絶妙なバランスの地方都市だった。四国という少々隔絶された環境にありながら京阪神に近いためその影響が大きい(特に言葉が)というのも良かった。実家である山口と同じ瀬戸内海に面しているのも良かった。
俺は瀬戸内の気候でずっと生きてきたから、やっぱり瀬戸内が落ち着くのがわかった。
でも、今度の行き先はまた縁もゆかりもない土地。さて、そこに俺は根付くことが出来るのか、それともまたどっかに吹き飛ばされてしまうのか。
そろそろ自分がどこに永住するべきか、考え始める時期になってきた。