新しい時計を買った。

　最近腕時計をなくした。それは俺の高校の入学祝いに贈られたもので、かれこれ10年ほど使っていたモノだった。ほとんどそれしか腕時計というものを知らなかったから、デザインが良かったとか、機能が優れているとか、そんなことを思ったことはほとんどなかった。でも、あるのが当然だったから、毎日のように腕にはめていた。

　俺は物持ちが悪い人間だ。俺が持ってるもので、五年以上付き合ってるものがどれだけあるだろうか。ほとんどないだろう。そんな俺が一番長く持っていたもの、それが腕時計だった。

　それがある日無くなった。出かけるとき、いつものように腕時計をつけようとしたところまでは覚えている。その数分後、腕時計をつけてないことに気付いた。
―落としたのだろうか？どこにも落ちていない。―ゴミ箱にでも放り込んだのだろうか？まさかいくら無意識でも時計を放り込むなんてありえない。

　神隠しみたいな無くし方だった。引越があったから、もしかしたら出てくるかも、と思っていたが結局どこからも出てこなかった。愛用の腕時計は、どこか異次元だかマトリックスの向こう側だかに行ってしまったらしい。

…今日、新しい時計を買ってきた。今度は自分のお金で、自分で選んで、自分に贈った。それほど値段は張らないけど…それでも十年前の、ただ受け取ることしかできなかった自分からすれば著しい成長だけれど、それは喜ばしいことだけれど、とても悲しい。古いあの時計と本当にお別れしてしまったんだってな。
　今度の時計はどれだけ長く使えるだろうか。出来る限りは大事にしたい。